NXPの車載向けPMIC
NXPの車載向けPMIC シリーズは、セーフティ機能を備えた車載グレードの電源管理ICです。
図4 NXPの車載向けPMICシリーズ
NXPの車載向けPMICは、自動車の12V/24Vバッテリーに直接接続可能な高電圧PMIC (図4の上)と、入力電源5V以下で動作する低電圧PMIC (図4の下)の2シリーズに分かれています。
車載向けPMICは、複数の電圧レギュレーター、ウォッチドッグ、電圧監視、セーフティ機能(機能安全レベルQMからASIL Dまで対応)などをワンチップに統合していますので、電源システムの単純化、電力効率の向上、開発工数、BOM(部品点数)、基板スペースを削減できます。
[ NXP公式 ] パワー・マネジメントIC (PMIC) とシステムベーシス・チップ (SBC)
NXPの車載向けPMICの3つの特徴
NXPの車載向けPMICの3つの特徴を紹介します。
1.電源システムを最適化
2.プラットフォーム開発を促進
3.ハイパフォーマンスな電源性能
1.電源システムを最適化
NXPの車載向けPMICは、電源システムを最適化して、開発コスト、BOMコスト、基板スペースを節約します。
マルチチャンネル電源を搭載
Buck(降圧コンバーター)、Boost(昇圧コンバーター)、LDO(リニアレギュレーター)、ボルテージトラッカー、リファレンス電源など。
OTPで簡単に設定変更が可能
急に要求仕様が変更されても、OTP※により、出力電圧レベル、電源シーケンス、セーフティ機能のさまざまな設定を簡単に試すことができます。
※OTP(One Time Programmable)メモリーは、一度だけデータ書き込みが可能な不揮発性ROMのことで、デバイスの一部の初期構成設定を格納しています。
監視マイコンの開発が不要
高精度な電圧監視およびセーフティ機能を搭載しているので、監視マイコンとそのソフトウェア開発が不要になります。
電圧監視とセーフティ機能を搭載
電源のOV/UV (Over Voltage / Under Voltage)監視、BIST(Built-in Self-test、自己診断)、ウォッチドッグなどのフォルトが一定回数を超えると自動で安全状態に遷移します。
2.プラットフォーム開発を促進
NXPの車載向けPMICは高いスケーラビリティを有しており、設計資産のリユースを最大化し、プラットフォーム開発を促進します。
複数のPMICを組み合わせてひとつのPMICのように動作
NXPの車載向けPMICは、相互接続可能なピンとインターフェース互換を備えたBYLinkコンセプトで設計されているので、複数のPMICを組み合わせて、あたかもひとつのPMICのように動作することができます。BYLink対応の製品は、専用の端子を使用して複数のPMIC間の電源シーケンスを簡単に同期できます。それぞれのPMICの電源シーケンスは、OTPでプログラム可能です。高電圧PMICと低電圧PMICの組み合わせのバリエーションは豊富なので、さまざまなアプリケーションおよびプロセッサーの電源に対応できます。
※BYLink:相互接続可能なピンとソフトウェア互換により、複数のPIMC同士で電源シーケンスの同期を可能にする技術のこと。BYLinkについては次章で具体例を交えて詳説します。
NXPおよび他社のマイコン/プロセッサーの電源としてアタッチ可能
NXPの車載向けPMICはNXPのマイコン/プロセッサーに100%アタッチ可能なだけでなく、多くの他社のマイコン/プロセッサーにも対応しています。
設計資産リユースを最大化
車載向けPMICシリーズは、共通のハードウェアおよびソフトウェアインターフェースを採用しており、プラットフォーム設計を効率化します。
3.ハイパフォーマンスな電源性能
広帯域幅により出力電圧が変化した際の応答性を改善
超低消費電力モードでスタンバイ中の電流消費を低減
基板サイズ、BOMコストを削減
機能安全設計を可能にする車載向けPMIC
NXPの車載向けPMICは、自動車で求められる機能安全規格であるISO26262の設計を可能にするセーフティ機能を内蔵しています。
セーフティ機能の概要について、NXPの車載向けPMICとセーフティMCUを搭載したシステムを例に説明します(図8)。
PMICのVcoreレギュレーターからMCUのコア電源、VCCAレギュレーターからアナログ電源、VAUXレギュレーターから外部IC(センサー)に電源を供給しています。PMICとMCUはSPI通信で接続され、RSTBはMCUのリセット端子に接続されています。システムが故障した際に、システムを安全な状態に移行させるセーフティ・スイッチは、PMICとセーフティMCUの両方から制御が可能です。
NXPの車載向けPMICが備えるセーフティ機能の4つの特徴を紹介します。
(特徴の数字(1)~(4)は、図8の数字(1)~(4)に対応しています。)
(1) 独立したフェイルセーフ・ステートマシン
フェイルセーフ・ステートマシンは他のシステムから物理的かつ電気的に独立
UV/ OVのしきい値を設定可能な電圧監視ユニットを内蔵
※UV (Undervoltage)は電源の低電圧、OV (Overvoltage)は電源の過電圧のこと。
潜在的故障(Latent Fault)を検出するためにアナログおよびロジック組み込み自己診断(ABIST/LBIST)を内蔵
※BISTはBuil-in Self-test(自己診断)の略。ABISTはAnalog BIST、LBISTはLogic BISTのこと。
(2) ウォッチドッグ
ウォッチドッグ(WD)機能でマイコンの故障を監視。タイムアウトWD、ウィンドウWDまたはQ&A WDを搭載。
(3) マルチパーパスIO
マルチパーパスIOは、ウェイクアップ入力、FCCU監視※、外部ICのエラー監視などに設定可能。
※FCCU監視: NXPのセーフティMCUがハードウェア故障を検出するとFCCU (Fault Collection and Control Unit)信号で外部ICに異常の発生を通知します。NXPのPMICは、このFCCU信号を監視して故障発生時にシステムを安全状態に移行します。
(4) フェイルセーフ出力ドライバー
RSTB:MCUのハードウェア・リセット端子に接続され、MCUのリセットイベントの監視とリセット信号のアサートが可能。
フェールセーフ・ピン(FS0B and/or FS1B):システムが故障した際に、一方のフェールセーフ・ピンの動作タイミングを遅延させて、システムを段階的に安全状態に移行することが可能。
BYLinkシステムで電源の開発効率を改善
自動車の電動化、ADAS、ゾーン、ドメイン・コントローラーなどのアプリケーションに対応するために、車載ECUの高性能化とその電源構成の複雑化が進んでいます。そのため、車載ECUの電源開発プラットフォームには、アプリケーションごとに異なる電源構成にも柔軟に対応できるスケーラビリティが求められています。
NXPの車載向けPMICはBYLinkコンセプトで設計されています。相互接続可能なピンとソフトウェア互換を備えたPMIC同士が協調し、複数のPMICで構成されたパワーレールを安全かつ効率的に制御します。BYLinkによって、複数のPMIC間のセーフティ機能と電源シーケンスは同期して、あたかもひとつのPMICのように振る舞います。BYLinkシステムは、消費電力の管理、機能安全の統合、複雑な電源シーケンスの管理を最適化し、電源のプラットフォーム開発の効率を改善します。
BYLinkの構成例として、セーフティMCUとプロセッサーが搭載された車載ECUの電源システムを見てみましょう。以下の図9は、NXPの提供する評価ボード BYLink Multiprocessor Demo Board (DEMO-BYL1-EVB) のブロック図です。(評価ボードに含まれるのは図9の左の電源回路のみです。プロセッサーは図中でProcessing MCUと表記されています。)
このシステムは、12V/24Vバッテリーを直接入力可能な高電圧PMIC x1とセーフティMCU、プロセッサーとそれに電源供給する低電圧PMIC x2で構成されています。このプロセッサーは高性能で消費電流が高く、DDRメモリーを使用します。
機能安全レベルASIL DのセーフティMCUには高電圧PMICのFS8510から電源供給、機能安全レベルASIL Bのプロセッサーには低電圧PMICのPF5024とPF5020から電源供給しています。プロセッサー用のPF5024とPF5020は、FS8510の高電圧Buck(VPRE)から電源供給され、PF5024とPF5020の電源起動タイミングはセーフティMCUのGPIOで制御します。PF5024とPF5020間はXFAILBピンで相互に接続され、電源シーケンスを同期できます。FS8510はセーフティMCUとSPIで通信し、インターフェースが互換なPF5024とPF5020はプロセッサーと共通のI2Cラインで通信します。
この構成はあくまで一例です。他にも図10の左のように低電圧PMICをプロセッサーとペリフェラル用で分けて配置、さらに図10の右のようにプロセッサー用に低電圧PMICを4つ配置した場合でも、BYLinkによって複数のPMIC同士を簡単に連携させることができます。
BYLinkに対応したNXPの車載向けPMICは、使用するアプリケーションに合わせて、高電圧PMICの有無、低電圧PMICの数と種類、ASILレベルなどの電源構成を柔軟に選択できます。BYLinkは、安全でスケーラブル、簡単な電源設計を可能にします。
[ NXP公式 ] BYLinkシステム電源プラットフォーム
[ NXP公式 ] BYLink システム パワー プラットフォーム(トレーニング)
次のページでは、NXPの車載PMICポートフォリオと代表製品の特徴を解説します。